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日々気合

時計仕掛けのエルメス - 佐近田展康

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childiscレーベルから2000年に発売された,佐近田展康の「時計仕掛けのエルメス」を取り上げます.彼は現在大学教授ということですが,同じく教授で作曲家である三輪眞弘という方とフォルマント兄弟なるユニット?を組んでおり,そちらの活動が主のようです.二人は人間の声を演奏する研究を続けているようで,ボーカロイドとは似て非なるものということです.分かりやすい違いとしては,ピアノなどの弾き方で何を喋るかを指定でき,声の大きさや抑揚なども制御できる,つまり従来の楽譜で歌詞や歌い方を表現できるということみたいです.以下の動画に詳しいですが,本気なんでしょうけど,歌わずして歌おうとする努力におかしみを感じてしまいます.

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今回取り上げるアルバムにも,おそらく研究成果である合成音声のボーカルがフィーチャーされています.また,ありふれた生活音を品良くサンプリングした曲も多いです.そして全編に漂う一貫した妖しさ,ナンセンス,ユーモアは,サティに近いものを感じますね.

「mechanization」:合成音声の囁きが不穏な感じを醸しますが,普通にファンキーでかっこいいです.

「armenian orange room」:どこかの酒場の片隅で,空気感をそのままサンプリングしたような猥雑な曲.こういう雰囲気好きです.

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「new century song」:新世紀を迎える曲ならもっと浮かれてもバチは当たらないと思うのですが,かなりひねくれてます.素直でないと言うか.でもそういうところが好きです.

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サティの演奏などで有名な高橋アキさんもカバーしてるみたいです.この「ためらいのタンゴ」という作品集,欲しいですね.

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「clockwork idealism」:歪んだ弦楽器による音楽.虫の声のような,アジテーションのような,そんな音がずっと鳴ってます.言葉では説明できません.

「inside rose」:物憂げなピアノ曲.このアルバムの中ではだいぶまっとうですね.アコーディオンもいい味出してます.

「sanctus」:女性の合成音声による賛美歌のような,呪文のような,どちらとも捉えられそうです.少し怖いです.

「papers」:紙をめくる音に対する感動をそのままパッケージしたような作品.そよ風の吹き込む人のいない(さっきまでいた?),カーテンのはためく部屋で,本のページが風にめくられているような情景が浮かびます.

「yellow moth vermilion silk」:黄色い蛾,朱い絹というどこか示唆的なタイトルですね.何かの音がひたすら鳴っているだけですが,それが心地よく,音フェチにはたまりません.

「sheeps negotiation」:羊の交渉というタイトルで,鳴き声のようなボイスが何かをこちらに訴えかけているような気がしてきます.

「garnet」:最後は,この世の終わりに流れそうな,とても哀しげな曲.

 アルバムとしての統一感がすごいですね.相当に実験的ですが,一本筋が通っている感じがします.