2025-01-01から1年間の記事一覧
その企業の名前を見たとき、私は少し笑った。 祖母に買ってもらった、あのカメラのメーカーだった。高校時代、写真部に入った記念として手にした一眼レフ。コンテストには出さず、部活では浮き、追放されるように居場所を失ったあの日々。そのカメラで、いま…
彼女からの最後の返信を見失ってから、私は彼とも会っていない。 気まずいというより、どんな顔で向き合えばいいのか分からなかった。もしかしたら彼は何も知らないのかもしれない。けれど、私自身が知ってしまった──それが十分すぎるほどに重かった。 そん…
私は、彼女が好きだった。 気づいたときには、もう逃れられなかった。だが、同時に気づいていた。 彼もまた、彼女のことを気にかけている。表情や声の端に、そういう気配が滲んでいた。 彼と彼女は、私より一年早く京大に入学し、私が知らない時間を共有して…
京大に入学した春、彼はすでにそこにいた。私は浪人して201x年に、彼は現役で201x-1年に入学していた。 そして、彼女も──私より一つ年上、同じく浪人して201x-1年に入学していた。 彼は正式な囲碁部員だった。だが彼女は、私と同じく、部に「所属する」こと…
数学部には、名前ほどに数学はなかった。 机の上には数式ではなくカードが並び、定理の証明ではなく遊戯王の効果処理で揉める声が飛び交っていた。囲碁部の部員たちがなぜかそこに居着いており、「数学」と「囲碁」と「遊戯王」が微妙なグラデーションで混ざ…
高校時代、私は写真部を“追放”された。 理由ははっきりしている。写真を撮らなかったから──いや、正確には「写真を撮っていたけれど、提出しなかった」から、である。 周囲の部員が、文化祭で笑顔の生徒を撮り、昼休みにグラウンドで走る運動部を狙い、春の…