私は、彼女が好きだった。
気づいたときには、もう逃れられなかった。
だが、同時に気づいていた。
彼もまた、彼女のことを気にかけている。
表情や声の端に、そういう気配が滲んでいた。
彼と彼女は、私より一年早く京大に入学し、私が知らない時間を共有していた。
そこに何かがあったのかどうかは、わからない。
だが私は、それを疑うことも、詮索することもしたくなかった。
彼は、大切な友人だった。
彼女も、大切な人になっていた。
私は、モヤモヤの真ん中で、身動きが取れなくなっていた。
遊びに誘うこともできなかった。
三人で集まることも、次第に少なくなっていった。
それでも、彼女との関係は完全に途切れなかった。
部室では会わなくなっても、ときどきメールをやりとりしていた。
他愛ないことをやりとりしながら、
私はいつも、メールの末尾に本心を添えかけては、そっと消していた。
そして、彼女が四回生になった。
卒業が近づく。
このままではもう、会えなくなる。
伝えなければ、何も始まらず、何も残らない──
私は、メールで告白した。
長文ではなかった。
だが、心は込めたつもりだった。
返信は、期待していたものではなかった。
それでも、彼女なりに丁寧に返してくれたようだった。
ただ私は──
その最後の返信を、読むことができなかった。
何が起きたのか、正確には思い出せない。
端末の不具合か、誤操作か、あるいは意識的な拒絶だったのか。
とにかく、彼女からの最後のメールは、もうどこにもない。
そして、ある日の午後。
キャンパスの緩やかな坂道を歩いていると、
彼女が、知らない男性と並んで歩いているのを見かけた。
彼女は、笑っていた。
あの、目を細めて、口角だけが上がる笑顔で。
それを見た瞬間、胸が、強く痛んだ。
理屈も言葉もない。ただ、焼けるように、痛かった。
私はそのまま、ゆっくり歩いて、振り返らなかった。
心の中で、盤面の石を一つずつ裏返すようにして、
静かに、負けを受け入れた。
中押し負けだった。