音楽好き好き

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日々気合

第四章:中押し負けのあとで

私は、彼女が好きだった。

気づいたときには、もう逃れられなかった。
だが、同時に気づいていた。

彼もまた、彼女のことを気にかけている。
表情や声の端に、そういう気配が滲んでいた。

彼と彼女は、私より一年早く京大に入学し、私が知らない時間を共有していた。
そこに何かがあったのかどうかは、わからない。
だが私は、それを疑うことも、詮索することもしたくなかった。

彼は、大切な友人だった。
彼女も、大切な人になっていた。

私は、モヤモヤの真ん中で、身動きが取れなくなっていた。

遊びに誘うこともできなかった。
三人で集まることも、次第に少なくなっていった。

それでも、彼女との関係は完全に途切れなかった。
部室では会わなくなっても、ときどきメールをやりとりしていた。
他愛ないことをやりとりしながら、
私はいつも、メールの末尾に本心を添えかけては、そっと消していた。

そして、彼女が四回生になった。

卒業が近づく。
このままではもう、会えなくなる。
伝えなければ、何も始まらず、何も残らない──

私は、メールで告白した。

長文ではなかった。
だが、心は込めたつもりだった。

返信は、期待していたものではなかった。
それでも、彼女なりに丁寧に返してくれたようだった。

ただ私は──
その最後の返信を、読むことができなかった。

何が起きたのか、正確には思い出せない。
端末の不具合か、誤操作か、あるいは意識的な拒絶だったのか。
とにかく、彼女からの最後のメールは、もうどこにもない。

そして、ある日の午後。

キャンパスの緩やかな坂道を歩いていると、
彼女が、知らない男性と並んで歩いているのを見かけた。

彼女は、笑っていた。
あの、目を細めて、口角だけが上がる笑顔で。

それを見た瞬間、胸が、強く痛んだ。
理屈も言葉もない。ただ、焼けるように、痛かった。

私はそのまま、ゆっくり歩いて、振り返らなかった。

心の中で、盤面の石を一つずつ裏返すようにして、
静かに、負けを受け入れた。

中押し負けだった。